はばたき情報局

ときメモGSシリーズに関するあれこれ(攻略情報・小ネタ・考察など)を発信!

【設楽聖司】手放すということ【考察】

今回はGS3の芸術キャラ、楽聖司先輩の考察をしていこうと思います。

自分の考察を晒すのはちょっと勇気がいるキャラではありますが、これも一つの考え方という事で温かい目で読んでいただけると嬉しいです。

設楽先輩を語る上で何がキーワードになるかな、と考えていたのですが、タイトルにもなっていますが、『手放す』というのがキーワードの一つとしてふさわしいかなと思いました。

手放すとは、どういうことなのか。
手放すことで彼はどのように変わっていったのか。

今回は、告白のセリフをたどりながら、イベントを少しかいつまんでいく感じで考察していこうと思います。

 

 



1.ピアノへの固執と自己中心的な世界

 

『ここには……はば学には、ピアノをやめるつもりで入学したんだ。だから、初めはピアノに近寄ることすらしなかった。ピアノから逃げて逃げて…………なのに、気付いたら音楽室に通うようになってた。俺にはピアノしかないってどこかではわかってたんだ。そんな未練がましい自分が嫌でしょうがなかった。弾けば弾くほどピアノも自分も何もかも嫌になる。あの頃はもう頭の中がぐちゃぐちゃで、自分でもどうしたいのかわからなくなってた。』

 

彼はかつて様々な国際ピアノコンクールで賞をとり、神童とも呼ばれていたのですが、中学2年生の時にコンクールでロシアの少年に負け、「これには勝てない」と絶望し、更にプライドも自信もズタズタにされてしまいました(これは『決心』イベントで語られます)。それを機にピアノをやめることを決意したのですが……結局気付けば音楽室に赴いてピアノを弾いてしまっている自分、ピアノ以外に自分には何もないという現実を突きつけられ、自己嫌悪に陥ります。出会ったばかりの頃の設楽先輩がやたら攻撃的な口調なのも、このような精神状態にあったからだと思われます。

 

f:id:key_habataki:20210104184649p:plain




彼にはピアノしかありませんでした。ピアノだけが彼の価値を高め、自尊心を保たせてくれていたのです。ピアノの実力(あえて才能とは言いません)がありすぎたがゆえに、気付けはピアノ以外の選択肢が見えなくなっていました。周りからも相当褒められたでしょうし、チヤホヤされたとも語っているので、ピアノ以外の楽しみや逃げ道を持つことを周りの人からも塞がれてしまっていたのだと思います。ピアノへの固執はここからきているのではないでしょうか。この執着心と閉塞感……彼が「呪い」と表現してしまうのも頷けます。

 

自身の高い演奏能力と、環境的要因によって、彼は自己中心的な世界をより強固なものにしていきます。彼の自己中心性は様々なところで見られます。好感度「普通」状態の時に見れる、『雨宿り』イベントもそのうちの一つかなと思っています。

 

f:id:key_habataki:20210104184459p:plain


雨宿りイベントの解釈はなかなか難しいのですが、あれは「主人公を雨でびしょ濡れにしたくない」という気持ちよりも、「自分より主人公が濡れていたときの周囲の目が怖い」という気持ちの方が強かったのではないかと思っています。”周りから自分がどうみられるか”というところに囚われているあたりが、自己中心性の高さを物語っています。しかし、このような考えに至ってしまう気持ちもなんとなく理解できます。なぜなら、彼は今まで常に人に見られ、評価される場に晒されていたからです。ピアノコンクール然り、格式高いパーティー然り。彼にとって、人にどう評価されるかというのは自分の自尊心に大きく影響していたのではないでしょうか。


とはいっても、この雨宿りイベントではやっぱり「主人公への気遣い」もあるでしょう。周りの目を気にする自分も、主人公を気遣う自分も、どちらも本当の設楽先輩なんだと思います。このイベントは好感度「普通以上」で見れるというのがポイントで、好感度によって微妙に解釈を変えられるところが面白いんですよね。さっき、「周りの評価>主人公への気遣い」と言いましたが、これは好感度が普通の時の解釈で、友好状態になったら「周りの評価≧主人公への気遣い」、好き状態だと「周りの評価≦主人公への気遣い」と段階的にプレーヤーに与える印象を変えていく柔軟さがあると思います。好感度が高くなるにつれて、「周りの目が気になる」というのが主人公を雨から守るための建前のように思えて、とても可愛いです。ツンデレですねぇ……😊

『黒板消し』『耳に入ったら……!』イベントでは、彼の頑固さが見えます。これも自己中心性の一つと言ってよいでしょう。主人公に黒板消しの叩き方をアドバイスされると怒っちゃいますし、タンポポ攻撃する主人公にも本気で怒ります。今まで何をしても自分が正解で、頂点にいた彼にとって、アドバイスをされるのは不服でしょうし、綿毛が耳に入ると耳が聞こえなくなるという冗談も信じ切ってしまってるあたり、彼の見えている世界、創り上げてきた世界の狭さが垣間見えます(少々辛辣な表現になってしまいましたが、ディスってるわけではないです)。しかし、最終的には黒板消しイベントでは、偶然性はあったものの新たな学びを得て、ちゃんと主人公のアドバイスを受け入れられるようになっています。なんだかんだ体験的に得られたものはちゃんと受け入れられるところが可愛いですし、彼の良いところだなと思います。タンポポイベントでは「音楽をやる上で耳は大事だから、少しでも耳に良くないものがあるならその危険性は徹底的に排除する」という姿勢が、本当に根っからピアノが好きなんだなというのを感じられて、私は大好きです。

 

f:id:key_habataki:20210104184418p:plain

 

このように、ピアノに固執し自己中心的な世界でしか生きてこれなかった彼は、どのようにしてそこから抜け出していったのでしょう。

 


2.本物の言葉、本物の態度

 

『……そんなときおまえに会ったんだ。おまえの言葉は不思議と入ってくるんだ。俺の中に。(中略)それまで誰に何を言われても煩わしいだけだったのに……チヤホヤされてもまたかと思うだけだったのに、おまえが言うとすんなり入ってくる。』

 

設楽先輩が閉じこもっていた小さな世界から飛び出せたきっかけは、告白の言葉にあるように、「主人公の存在と言葉」でしょう。
これだけでは少しわかりにくいですね。嘘も忖度もないまっすぐな言葉、設楽先輩が心のどこかで憧れていた自由な生き方、いつもこれらを投げかけ、見せていたのが主人公なのです。

 

設楽先輩はこれまで、(ごく限られた国際ピアノコンクールという)ピアノの世界ではいくらかの権威性を持っていたと思いますし、また両親の権威性にも守られてきて生きてきました。彼の持っている力と権威性に目を付けて、声をかけてくるものも沢山いたと思います。その中には、いかに彼のご機嫌を取って自分たちを有利な立場にするか、得をするか…そのような薄汚い思惑もきっとあったでしょう。
そんな、薄汚い思惑も見えてしまっていた彼は上辺だけの付き合いをしなければならないこの世界に、孤独感を持っていたのではないかと思います。彼が人との付き合いを避けようとするのは、このような苦く切ない経験をしてきたからだと思います。それでも、権威性を持っているうちは多少孤独感がまぎれます。それを知っていたからこそ、コンクールで勝つことが、彼が生きていくうえでとても重要なものになったのだと思います。
しかしそれも、中学二年生の時にピアノで負けてしまったことで、権威性を失ってしまった、周囲の人にとっての自分の価値を失ってしまった、と感じてしまいます。どこか寂しさを覚えながらもそれでも縋るしかなかった嘘と忖度にまみれた偽りの人間関係さえも失われるのではないかという危機感が生まれてしまったのです。これが彼の孤独感を一層強めることになりました。

彼は、本物の言葉を求めていました。そのことがよく分かるイベントが『子どもコンサート』だと思います。はばたき学園高等部に来ていた園児にリクエストされるがままにその曲を演奏する設楽先輩。少しでも間違えるとブーイングをする園児。少々腹を立てながらも、まっすぐな言葉をかけてくれる子どもたちに心地よさも感じる…という感じのイベントです。
おまけのアルバムボイスでは
「あいつら容赦なかったなぁ。俺も容赦なく対応したけどな」
と言います。このセリフ、すごく設楽先輩らしくていいですよね。大人げないと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。設楽先輩はただただ対等な関係を持ちたかっただけなのです。嘘のないやりとりを求めていただけ……。

 

設楽先輩が紺野先輩と仲良くできているのも、紺野先輩が容赦なく本物の言葉をぶつけてきてくれる存在だったからでしょう。人望もありつつ、時々毒っ気の混じった本音を漏らす紺野先輩だからこそ、設楽先輩は安心して関われたのだと思います。

主人公もそうです。年下だからと言って、変にへりくだるようなことはしません。自分の思いはまっすぐ伝えるし、何よりあらゆることになんの偏見も持っていない。ピアニスト設楽聖司、ではなく何の装飾もない設楽聖司として接していたからこそ、設楽先輩からこれほどまでに信頼されたのだと思います。

海水浴のときめき会話では海で水をかけあうカップルを「恥ずかしい」と思っていた設楽先輩。それでも主人公は設楽先輩に水をかけて笑います。それを見た瞬間に、自分が勝手に作り上げてしまった世界・価値観の狭さに気付かされるのです。最初は抵抗感を示しながらも「やったな」と言ってやり返す設楽先輩を見たとき、なんて可愛いんだと思いましたし、これが世界を広げる瞬間なんだなと思いました。本物の言葉と愛の力は偉大だなと感じました。



3.手放すということ

 

f:id:key_habataki:20210104184230p:plain

 

さて、ここで本題に入っていきます。
設楽先輩は、主人公と出会い、またもう一度ピアノと向き合う決心をして自分の世界を広げることができました。設楽先輩は「手放す」ことで、新たな一歩を踏み出すことができたのです。

手放すというのは、簡単なようでとても難しいことです。私の好きな本の一つスタンフォード大学 マインドフルネス教室』の著者、ティーブン・マーフィ・重松さん「人生で一番難しいこと」として「手放すこと」を挙げています。

手放すとはどういうことか、この本にはこのように書かれています。

 

手放すとはーそれが、考えであれ、物であれ、出来事であれ、特定の時間であれ、意見であれ、願望であれー何かにしがみつくのをやめることである。それは、今この瞬間が展開するなかで、その流れに完全に入っていこうという意識的な決意だ。手放すとは無理強い、抵抗、格闘をやめて、魅惑されたり拒絶したり、欲求や好みに囚われることなく物事をそのままにしておくことで、もっと力強く健全な何かを獲得することだ。

 

引用元:『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』p.237

 

ここで、設楽先輩の告白台詞を見てみます。

『……それに、おまえといると時々ピアノを忘れるんだ。これがどういうことか分かるか? 物心ついた頃から俺にはピアノしかなかったんだ。それなのに…………本当はそうじゃないって教えられたような気がした。ピアノだけが俺の全てじゃないって』

 

個人的に、ここのセリフ一番好きです。彼のこれまでの生き方を知っていくうちに、この言葉にどんどん重みが増していきます。
あれほど、ピアノにしがみついていた設楽先輩が「おまえといると時々ピアノを忘れるんだ」と言うのです。今まで自分にはピアノしかなかったのに、ピアノと同じくらい、もしくはそれ以上に大切な存在が彼にはできたのです。その大切な存在というのが、主人公です。本物の言葉をいつも与えてくれる主人公に、設楽先輩ははじめて心の底から安心できる存在を見つけたのです。もし仮に、ピアノを失うことになったとしても、主人公という居場所があり続ける限り、彼は生きる力を持ち続けることができる、ということです。

設楽先輩は、主人公を好きになることで、初めてピアノを手放すことができました。ピアノへの執着とプライドをようやく手放すことができたのです。これは、ピアノがどうでもよくなったという事ではありません。コンクールで一番になれなくてもいいと思っているわけでもありません。それは、『決心』『ピアノコンクール』のイベントからもひしひしと伝わってきます。彼は、ピアノをいい意味で手放すことができたおかげで、本当の意味でピアノと向き合うことができたのです。主人公という安全基地があるおかげで、設楽先輩はピアノと向き合う覚悟ができました。自分の世界に閉じこもって本来不必要なはずのピアノへの抵抗や格闘をやめて、自分の世界から一歩踏み出し、今ここにある世界を受け入れ、楽しむ覚悟。この成長を見て、感動しないなんてことはありますか?いや、ない。
エンドロール後、設楽先輩はこう言います。

『おまえに出会ってから、世界が違って見えるんだ」
これが、彼が自分の世界から飛び出した証拠ですね。本当に泣けてきます。

彼は、何か一つにすがって生きることに苦しんでいました。学園演劇(『かもめ』)のイベントからもそれが窺えます。才能への過信、大切なものを捨ててまで全てピアノに捧げることのしんどさ、才能を生かすことと自分の大切なものや場所を守ることは両立できないのか……あの演劇には彼のこのような苦悩が見えてきます。

 

f:id:key_habataki:20210104184127p:plain

ピアノだけで生きていく必要はありません。むしろ、安全基地を持っておいた方がより安心してピアノとしっかり向き合うことができるのです。主人公との3年間を通して、このことを強く実感したことと思います。

きっと本物の「強さ」を手に入れた彼は、これからどんどん素敵なピアニストになっていくでしょうね。

 

 

4.おわりに

以上で設楽先輩の考察を終わります。
いかがだったでしょうか。少々網羅的な書き方になってしまったので、一つ一つのイベントに対する考察は浅くなってしまったかな、とは思いますが、書きたいことは書けたかなという印象です。
設楽先輩の魅力が少しでも伝わったなら幸いです。

 

最後に一つ。ADVの『教師』、設楽先輩と氷室先生のやり取りが超絶かっこいいのでぜひ読んでみて下さい。設楽先輩の『決心』イベントを見ると解放されます。

2021年もこんな感じで色んなキャラの考察をしていこうと思っているので、応援していただけると嬉しいです。それでは、また!